Prologue ラグ・ローラ少尉(19)

「狂人の考えは常人の理解を超える。 」ジーク・ジオン 
父を知らず、母も知らず。この世に生を受けて以来、誰かを愛した事も、愛された事もなく、愛について思いを馳せた事もなかった。ただ毎日を生きる事、食べて行く事のみ考えてきた。宇宙に浮かぶ巨大な鳥籠で産まれ時代に流れ流され行き着いた場所、そこは知ってか知らずか己のルーツたる星にして大地。其処へ至るまでに生きるために手にしたありとあらゆるスキルは尊敬と畏怖を集め組織の中で立場という力を手に入れた。そしてその力は仲間という名の家族を与えてくれた。手に入れて初めて自分が心の底から望んでいた物が何だったのかを知った。「家族」その言葉が存在が今までただ生きているだけの虚無だった己自身という存在が初めてこの世に形を成した、本当の意味で生きるという事を理解しそれを与えてくれた組織に、国家に彼女は忠誠を誓った。それが例え狂った考えだとしても。今、彼女は思う、分厚く冷たい装甲に覆われた子宮の中で眼前に迫る超高温の光の粒子が己の体を焼き尽くさんと迫るこの時に、この世に私が遺すべき言葉があるとしたら何だろうか? 彼女は最後の言葉を遺し光の中に消えた。 
「ジーク・ジオン‥‥。」(祖国、万歳)

EpisodeⅠ サンドラ・ブルーメ(25)伍長

人は誰しも木の股から生まれる事はない。 だが誰しもが望まれてこの世に産まれてくるわけでもない。 

男と女が出会い、結ばれて新たな命が生まれる、ただそこにあるのは単純明快な生命のプログラム。人は時にそれを「愛」と呼び 男を父に、女を母という役割を背負わせるプログラムとした。

 

「ムンゾ自治共和国」地球から最も遠く離れた月の裏側にあるスペースコロニー群。 彼女はその中のサイドの一つでこの世に生を受けた。 

至極普通の一般家庭で生まれ育った彼女だったが何時の時代にも存在する若さに任せ自堕落で快楽と根拠のない優越感に駆られた若者の一人として無軌道な青春時代を過ごし、当時ムンゾに駐留する地球連邦軍の高官との間に望まぬ子を身籠っていた。 最初は産む事など考えてはいなかった。別に愛した男の子でもなし子供が好きな訳でもましてや母になる覚悟などもなかった。 だが男の煮え切らない態度へのいら立ちとこの子を産めばこの鬱屈とした宇宙の暮らしよりは幾らかましな地球市民としてのプラチナムチケットが手に入るかも知れないとの邪な考えから産む事にした。無論、そこに「愛」など存在するはずもなかった。 その後、場末の教会が運営する小さな病院で僅か1000gにも満たない男児を出産する。 生れたばかりのを嬉わが子を嬉々として自分に抱かせようとする何も知らない病院のスタッフと陣痛のいら立ちを隠そうとしない態度の彼女だったが生まれたばかりの我が子を抱いた瞬間、全身に電撃が走ったような衝撃を受け今まで流した事のない理由の解らぬ涙を流しこう思った。「この子の為なら、この先どんな事もできる、この子を幸せにする為なら地獄に落ちても構わない。」なぜ突然そんな事を思ったのか自分でも理解できなったがそれは心の底から湧き上がる真実の言葉だった。彼女はその瞬間「女」から「母」へと変わった。一人の不良少女が「母」へと覚醒したこの日、ムンゾ共和国がジオン自治共和国と名を変えていた宇宙世紀0077。ジオン共和国士官学校の生徒達による武装蜂起、後に「暁の蜂起」と呼ばれる事件が勃発した。 徐々に戦争の足音が近づきつつ有るのを誰もが感じ始めた宇宙世紀0078。 世の喧騒とは裏腹に幸せな日々をおくっていた彼女の元に現れた息子の父親、そしてスーツの男達、彼らは彼女から子供を取り上げこう告げた。「ジオン共和国と地球連邦政府は近いうち必ず戦争状態に突入する、その時、君は我々の力になってくれ。そしてこの子は地球で必ず幸せにする。そして戦争が終われば必ず君も迎えに行くから。」と否応なく母親から子供を奪った男達が去った後、時は宇宙世紀0079 11・1

ジオン公国アフリカ方面軍キリマンジャロ基地にて胸部装甲をビームサーベルで貫かれる「ケンプファー」を中破したドムのコックピットモニター越しに彼女はただボンヤリと眺めていた。 

Episode Ⅱ キャンディ・ルシファー(17)軍曹

キャンディ・ルシファー 年齢17 性別 女

今、思い返せばよくこんな名前で登録できたものだ。

役所の住民登録ネットをハッキングして適当な経歴をでっち上げて作った履歴書に載せるために必要な名前が思いつかずその時タバコを切らせて代わりに口に咥えていたキャンディーと当時、好きだったバンドの名前を頂戴し適当に拵えた。

彼女はその年齢と性別以外、虚偽事実だらけの書類をジオン公国軍の志願兵登録センターで提出し受理された。

公文書偽造・・・・・立派な犯罪であるしジオン公国の法律によれば最悪、死刑もあり得る。

そのリスクを承知で彼女はジオン軍に志願した。

僅か8週間のジオン軍兵役基礎訓練とMSパイロット養成訓練を得て

晴れて彼女は年齢以外、全て、虚偽で完全武装した架空の人物として誉高いジオン公国兵士となった。

 

なぜ17歳のうら若き少女は名前まで偽って軍籍を手に入れたのか。

 

彼女の両親は現ジオン公国、公王家一族ザビ家に近しい名家の出身であった。

名家の長女としてこの世に生を受けた彼女は優しい両親と7歳離れた兄に愛され、広大な屋敷と多くの大人たちに囲まれ自分の生家を含めたザビ家一党の血生臭い政治闘争など一切知ることもなく「お転婆・じゃじゃ馬娘」と呼ばれながらも不自由のない少女時代を過ごした。

10歳の頃、名家の長女に相応しい教育を受けるべく全寮制の女学院へと入学する。

そこは正真正銘のお嬢様養成校で将来国の中枢を担う政府高官やザビ家へ献上される女性達を養成する機関でもあった。

そんな場所で彼女は15歳で脱走するまで刑務所に服役させられる囚人の様な気持ちで過ごした。

5年間の青春を過ごした場所ではあるが何の思い入れもなくただ退屈な場所だった。・・・・・が高価な学習機材、特に当時最新のコンピューターで

独学したハッキング技術は後の人生にも大きく役立つスキルであったのには感謝している。

15で学校と家から脱走し17で軍籍に入るまでの2年間の逃亡生活中、彼女は外の世界を持ち前の行動力とハッキング技術を存分に駆使し満喫し、この期間に酒とタバコ、ギャンブルや喧嘩の作法を大いに学び名家出身の淑女から天下御免の無頼少女へと立派に成長していた。

そんな時、時代が大きく鳴動する。

宇宙世紀0079年1月3日、ジオン共和国が地球連邦政府へ宣戦布告。

その後のジオン軍ドズル艦隊とMS「ザク」の活躍をニュースを見た彼女は自分の胸が高揚するのを感じた。

 

宇宙世紀0079 3月1日 第一次降下作戦

地球大気圏上空にてHLV(垂直離着型単段式宇宙輸送機)に搭載されたザクのコックピットの内に旧世紀のバンド「ルシファー」の楽曲を爆音で流す彼女の姿があった。

 

Episode Ⅲ フィオリー・キッド(17) 伍長

ミノフスキー粒子の発見と新たな戦場の主役モビルスーツの登場により戦場の模様が旧世紀より先祖返りした宇宙世紀0079。だが地球上、重力化における生身の兵士、つまり歩兵の役割は旧世紀と大きく変化する事がなかった。 宇宙世紀の歩兵、彼らの任務は戦闘は無論ののことミノフスキー粒子測量に散布、駐屯地の設営、時にモビルスーツの現地修理など正に戦場の何でも屋であった。そしてジオン公国アフリカ方面軍、第101機甲歩兵中隊所属サンドオルカ隊も結成当初には40名以上の歩兵隊員を有し北アフリカの最前戦を遊撃部隊として大いに暴れ回った。宇宙世紀0079 11・3キリマンジャロ基地より南方4.5キロ地点。サンドオルカ隊、隊長ラグ・ローラ少尉乗機であった強襲用試作MSケンプファーの頭部パーツであったブレードアンテナを墓跡代わりに今日まで共に戦い散った姉妹達の名前を刻んで設置した。 その鎮魂碑の前に今日付けて配属になった侵入隊員2名を加え現在、所属隊員総勢17名は横一文字に整列し新隊長キャンディ・ルシファー軍曹の号令のもと其々の思いを胸に秘めつつ最大限の敬意を込めて戦死者達を見送った。本来ならば早朝から葬儀をするはずが新隊長と新入隊員の喧嘩騒ぎのせいで日がすっかり暮れていた。葬儀後、野営地の歩兵隊員用キャンプで酒盛りが開かれた。ここには新兵を含めMSパイロット達はいない。そのせいか葬儀後には隊員達の酒のつまみ話が完全にそればかりになった。新入の1人が「男」それだけの事で新隊長が激昂し殴りつけ、さらに新入が殴り返したらしい。確かにサンドオルカ隊は結成以来、女ばかりの女世帯だったが補給もままらない昨今の戦況を見れば補充兵の性別などにこだわってる場合ではないだろう、それに他にもっと考えるべき事があるはずだ。ラグ隊長が戦死した先の戦いの事だ‥‥。遊撃部隊のサンドオルカ隊が定期補給の為に基地へ帰還中に遭遇した全身黒い装甲と頭部にツインブレードを載せた特徴のある機体、連邦のモビルスーツ「ガンダム」。 単騎ながらこちらのMS「ケンプファー、ザクⅡ、ドムトローペン」の3機を手球にとったあの機体。 そしてサンドラ伍長が駆るドムトローペンのあの動きの異様さ、いつもならラグ隊長、キャンディ軍曹の後ろミドルレンジからラケーテン・バズを使用しての高火力支援があの女の仕事のはず、しかしあの日その仕事を放棄して何故か単騎駆けを仕掛け白兵戦に持ち込む等、不可思議な動きをしていた。・・・・・今思い返せば連邦が戦場にMSを投入し出した頃からあの女の動きはおかしかった。 はじめの頃はエース狙いのスコア(撃墜数)稼ぎか白兵戦でドムトローペン自慢のヒート・サーベルを使用して敵MSの両断に快感を得るサディズムにでも目覚めたのかとも考えたがそんな俗物的なものではなくもっと‥‥必死で悲壮なまでの覚悟のようなものを感じた。ミノフスキー粒子の戦闘濃度の状況下で味方との通信も危うい状況下‥‥そう、敵と接触回線を試みるような動きに感じたのは自分だけだろか。安酒を飲み過ぎて酔ったのか疑惑か妄想かわからない考えが頭の中で駆け巡った。「どんな状況でも諦めない、家族を信じてて、お互い支え合おう、ジーク・ジオン」 ふと、ラグ隊長の言葉が頭に浮かんだ。隊長は笑顔でいつも言っていた台詞だ。隊長は類稀なMS操縦技術と非凡な小隊指揮能力の持ち主だったがその実、「仲間は家族、家族皆んな揃って宇宙へ帰るぞ」戦場で夢を語りながら味方の被害が出ると1人隠れて涙する年相応の少女だった。そんな彼女の顔が脳裏に蘇ると自然に涙が溢れてきた。拭いきれないほどの涙が出て確信した。自分は隊長を好きだった‥‥否、愛していたのだ。この時代、同性愛など珍しくもなかったがそれでも自分の気持ちを打ち明ける勇気も戦時下で恋愛する余裕もなかっただろう。隊長は嫌っていたがどうしてもやめらなかったタバコに火をつけ心を落ち着かせた。一本吸い終わると覚悟を決めてサンドラ伍長のテントへ向かった真相を確かめたかったのだ。‥‥否、真相などどうでも良かった、せめて隊長の最後にこの世に残した言葉を知りたかったのだ。 あの時、あの瞬間に彼女の側にいたサンドラ伍長に隊長がもしかしたら最後に自分の名前を呼んでくれたのではないか?酔っているせいかそれを確かめたくて仕方がなかった。その夜、彼女は消えた。後日、軍はフィオリー・キッド伍長を脱走兵として不名誉除隊処分とした。

Episode Ⅳ ロイド・シムス (20) 二等兵

 

MS-07B グフ後期量産型 ジオニック社製のザクIIJ型(陸戦型ザク)を白兵戦特化型へ発展させるというコンセプトの元に開発された機体である。

その性能は従来のジオン軍主力MSザクIIを上回るとされてはいるがその実、ザクよりは多少強化された装甲とパワー、機動性、重力化における白兵戦闘能力特化に調整された機体バランスそして追加の専用シールドや専用武装である伸縮式の電磁鞭「ヒートロッド」、熱伝導式の実体剣「ヒートソード」、更に左手にマウントされた5連装75mm機関砲、通称「フィンガーバルカ」ン等、いずれも癖が強い武装となっており現場のパイロット達からは一部のベテランやエースパイロットを除き扱いづらいとして敬遠される機体であった。

 

宇宙世紀0079 113

今日が今までの人生で1番の最悪な1日なのは間違いないだろう。

地球時間正子、ジオン軍制宙権上、赤道上空からの大気圏突入準備中、地球連邦軍宇宙巡洋艦サラミス級、二隻に捕捉され艦隊戦に突入の後、乗艦していたムサイは轟沈、命からがらザクIIJ・型2機と補給物資を搭載したコムサイ(宇宙往還機)で脱出し無事に不時着。初めて感じる地球の重力に酔い、コロニー内の生活では感じた事のない気圧、大地の匂い、風の冷たさにただ戸惑い頭痛に苦しんだ。 不幸中の幸いか、着任地であるキリマンジャロ基地近くに不時着したのですぐさま救助されたが休む間も与えられず基地内の医療班に衛生兵として着任予定が急遽、北アフリカ戦線遊撃隊への急な転属命令、しかもMSパイロットとして。 そして悪夢は続く、転属先が女性隊員のみで構成された「サンドオルカ隊」だったのだ。

複雑な心境で先の戦闘で戦死した隊長の後任の新隊長への着任挨拶でいきなり訳も分からず殴られて反射的に殴り返してしまい営倉送りにされた。更に最悪だったのは更に殴り返された反動で同日、入隊した新入女性隊員の胸に顔を埋めてしまった事だ。あの時の女性隊員の冷たい視線は生涯忘れる事はないだろう。

上官に対して暴行は最悪、銃殺刑だ。

だが営倉に放り込まれて1時間もたたずに釈放された。営倉から釈放されまた新隊長の前に召し出され放たれた言葉は衝撃だった。

「女の顔に本気のパンチを喰らわせられる奴は信用出来る。」更にその言葉と共に強烈なコークスクリューブローをみぞおちに食らった。ノーマルスーツ(宇宙服)を着ていなかったら内臓が破裂していたかも知れない。苦しむ自分の顔を新隊長は満面の笑みで覗き込み右手を差し出した。「キャンディ・ルシファー軍曹だ、よろしくな。」どうやら隊長に気に入られたようだ。無事釈放されはしたが不幸な出来事は止まる事はなかった。休む間もなく基地から離れサンドオルカ隊の駐屯地へ直行し隊員合同葬儀に参列、その流れで侵入隊員挨拶、女性隊員達からの好奇の視線と歓声に晒される。そして隊内で配置されたポジションは戦闘で最も危険に晒される前衛のMSパイロットであり更に扱いが特殊で一般のパイロット達からは敬遠されがちなMS「グフ」を受領させられた。

 

同日、夜半、サンドオルカ隊の鎮魂碑から更に北へ20キロ地点

カモフラージュなど一切する気のないカラフルでエキセントリックな塗装と寄せ集めのジャンク品で歪な増加装甲を施された旧ザクこと、我が軍から鹵獲したと思われるMS-05BザクI、3機と自分が駆るMS-07Bグフそしてキャンディ隊長の駆るMS-06JSザクIIJ型指揮官機仕様(ザクIIJS140mmザクマシンガン装備は戦闘状態にあった。現地の武装ゲリラである「アフリカ解放戦線」と名乗る彼らは名前だけは立派だがジオン、連邦、民間人に関わらず無差別に襲い掛かり装備などの略奪を繰り返す、ならず者集団である。「サンドオルカ隊」合同葬儀後にキャンディ隊長から重力化におけるMS操縦訓練に駆り出されている最中に遭遇したのだ。

重力化におけるMS戦がこんなにも過酷だとはシミュレーターや宇宙空間での訓練では想像出来なかった。 グフのフィンガーバルカンが轟音をたて勇猛に弾幕を張るが流石に地の利は彼らにあって巧みな機動で躱され猛攻をうけている。 3機の見事な連携に翻弄されっぱなしである。

その時ズシンと背中に衝撃を受けキャンディ隊長からの接触回線通信を受ける。フォームの始まり

「落ち着け‼スカーフェイス!・・・・・お前の機体がこの中で一番、装甲が厚くて機動力があんだぞ‼・・・・・それを活かせ‼」 スカーフェイスとは恐らく自分の事だろう幼少期にスペースボートの事故で負った左目から頬にまで走る大きな傷跡の事だろう。

この事故がきっかけで医者を目指した自分がまるで逆の行為に身をさらし今まさに命の危機に瀕している。「本当に今日は何て日だ‼」モニターに向かって叫んだと同時にまたガツン!と機体の背後に衝撃を受け再びキャンディ隊長からの接触回線通信が入る。

「・・・・いいから落ち着いて聞け‼カマ野郎‼・・・・シールドでコックピットをガードしながら正面の奴へ吶喊しろ!・・・・後は私が殺る‼」「・・・・了解‼」

キャンディ隊長の命令を聞きシールドでコックピットをカバーした体制で中央の頭部に羽飾りを誂たザクⅠ、恐らく敵の隊長機へ吶喊攻撃を敢行した。「ウォオオオ・・・・‼」

派手なザクⅠが装備した105mmマシンガンの集中砲火をシールドで防ぎながら距離を詰めた瞬間、自機が大きく下に沈むのを感じた。 キャンディ隊長のザクⅡ・JSがグフの背中を踏み台に大きく頂上へジャンプし上空から140mmザクマシンガンを掃射。敵、隊長機を撃破し続いて降下機動中にもう1機のザクⅠへ140mm弾を発射、旧ザクは脚部に弾を受け中破し膝をついた。キャンディ隊長のザクⅡ・JSが着地する瞬間を狙っていたもう一機の旧ザクはヒートホーク(対MS用戦斧)を振りかざし迫っていたがキャンディ隊長は冷静にクラッカー(対MS用擲弾)を投げけん制し、敵機が怯んだ隙に弾切れのザクマシンガンを素早くリロード。フォームの終わり

コックピットへ向け掃射、ザクⅠはコックピットを貫かれ沈黙した。同時に先ほど膝を損傷したザクⅠが体制を立て直し105mmマシンガンの砲火を向けてきたがキャンディ隊長は冷静にザクⅡ・JSの左肩にマウントされたシールドに角度をつけ受け流し残りの140mm弾をフルバーストし沈黙させキャンディ隊長は撃墜スコアを3機更新。正にあっという間の出来事であった。「これがエース・・・・。」無意識に言葉がでた。

いつの間にか夜が明け太陽が昇り始めキャンディ隊長のザクⅡ・JSそしてザクマシンガンからあがる硝煙と燃え盛るMSの残骸を照らしていた。

隊長のザクに踏み台にされて転倒したグフを抱き起してもらいコックピットハッチを開けた。

そこには満面の笑みを自分に向けてくる隊長がいた。

「よく頑張ったなぁ・・・・。新人君ホレ!」そういうとコックピットへ向けて可愛いキャラクターがプリントされた紙で綺麗に包装された箱を投げてよこした。「新入隊員には必ずコレをやるのがウチの伝統なんだわ。」 「・・・・ハァ。」 戸惑っていると隊長が開けてみろとハンドサインを送ってきたので箱の包装紙を丁寧に剥がし箱の中身を空けてみた。そこには避妊用具と女性用生理用品が箱一杯に詰め込まれていた。

「お前がウチのビッチ共の誰とねんごろになろうが知った事じゃないが中途半端な事しやがったら殺すからな?」「・・・・・・・・。」面を食らって呆然とする自分へキャンディ隊長はあどけない年相応の少女の笑顔で「ようこそ、地球へ。」

[今日は本当に人生で最悪な一日だ。]

 

 

宇宙世紀0079 11・4 オデッサデイまであと2日。

EpisodeⅤ アオイ・イノリ(19) 伍長

地球上の約70パーセントを占め多種多様な水生生物の住まう場所・・・・海。
宇宙移民3世、宇宙で生まれ宇宙で育った生粋のスペースノイドである私は当然の事ながら一度も肉眼で海など見たことはなかった。初めて海を知ったのはロースクール時代の地球史の授業だった。確か・・・・広大な水たまりを集団で泳ぎ狩りをする水生生物の映像だったような気がする。・・・・ともかくその日、私は海にすっかり魅了されたのだ。学校から帰るなり自室に篭り手あたり次第に地球の海に関する全ての事をネット端末で調べまくった。あの日から私はずっと海に焦がれ続けていたのだ。だが政府高官の娘でもなく裕福な家の出身者でもなかった私にはただ「地球へ行く」事さえも簡単ではない・・・・否、不可能な事なのだと大人になるにつれ理解するようになった。
何の取柄もないただのスペースノイドの女が地球へ移住するなら、地球連邦政府高官か地球連邦軍の幹部クラスの女にでもなるくらいしか思いつかなかったが当時の私はただのしがないEVA(船外活動員)で毎日、宇宙用モビルワーカーでコロニーの外壁修理の仕事に汗する一労働者でしかなかったのでそんな雲の上の存在の方々に出会えるわけもなかった。そもそも私に言い寄ってくるような男にろくな男はいなかった。そんな暮らしの中でも地球への海への憧れは日に日に大きくなって行く。この気持ちを発散させるため仕事終わりには恐らくスペースノイドの間にあった地球への憧れの影響だろうか当時流行していた小さな映画館で旧世紀の地球で撮られたドキュメンタリーからホラーまで海をテーマにした映画を毎日、見に行き鬱憤を晴らす日々を送っていた。そんな毎日を送っていたある日、こんな私にもチャンスが訪れたのだ、ジオン公国が地球連邦政府へ宣戦を布告したのだ。「戦争」多くの人がこの言葉に不安と恐怖を覚えただろうが私には福音に思えた。「軍人になれば地球へ行けるかもしれない・・・・・。」そんな単純な思いで志願し無事、書類審査を通過しジオン軍新兵訓練所へすぐさま送られた。 新兵訓練所での訓練も無事に終了し上申した通り、第一次地球降下作戦の先発隊へ潜り込むことが出来た。「これで地球へ行ける、本物の海が見える・・・・・。」地球の重力と戦線への不安と恐怖に怯える周りの将兵を横目に私の胸は希望と歓喜に溢れていた。そんな時に出会ったのがキャンディ・ルシファー上等兵だった。私と同じ理由ではないだろうが怯えた表情の周りの人間から見たら異常だと思えるほどハイテンションの彼女とは意気投合しアドレスを交換し友人となった。地球降下後は別々の部隊へ配属されそれぞれの戦線へ向かったがまさか元居た部隊から転属した先の隊長として再開することになるとは夢にも思わなかった。 地球降下電撃作戦後、私は大西洋上でマッドアングラー隊の護衛艦ユーコーン部隊所属のMSパイロットとしてMSM-07ズゴックに搭乗し夢にまで見た海で人生最高の日々を謳歌していたのだが戦況が悪化していた宇宙世紀0079 10・31日付けで兵員不足の為、急遽北アフリカ戦線への転属命令を受けて愛機、ズゴックと別れファットアンクル輸送機でキリマンジャロ基地へ向かった。
ファットアンクルから見下ろす海はとても寂しく映った。ただ唯一幸いだったのは私が所属していた隊は哨戒偵察任務が主で殆ど戦闘らしい戦闘にも遭遇することもなくこの時まで平和に過ごせたことだろうおかげで「連邦の白い悪魔」だの「メインカメラが赤く発光する蒼い死神」だの眉唾な都市伝説に遭遇することもなかった事だろうか。 そして何より私が愛する海を自分の愛機で汚さなくてすんだ事だろう。願わくば戦争が一刻も早く終結してまた平和な海で日がな一日、自由に泳ぎ、愛機で潜水し水生生物の観察や雄大な大西洋を横断旅行などに洒落こみたいものだと思ったが現実は甘くはなった。時に宇宙世紀0079 11・1 キリマンジャロ基地に到着し基地守備隊に転属した初日に地球連邦軍の奇襲攻撃に遭遇し今日、出会ったばかりの小隊の戦友達。名前も顔も誰一人、覚えることも出来ず見送る事になってしまった。  基地防衛隊の必死の活躍によりキリマンジャロ基地の防衛には成功したが多大な損害を出し転属先を失ってしまった私は後日、すぐさま別の隊への転属命令を受け北アフリカ戦線遊撃部隊である第101機甲歩兵中隊所属サンドオルカ隊へ入隊。そこでキャンディ・ルシファー軍曹と再会した。 以前あった時は上等兵だったがどうやらジオン軍内で順調に出世しているようだ。先日の戦闘で前任の隊長が戦死されてそれを受け継いだらしい。 私との偶然の再開を喜ぶ表情は明るかったが無理して明るく振舞っているようだ、それも当然だろう彼女のキャラクターは多少なりとも知っている。MS操縦の技術は常人を遥かに凌駕するセンスを持ってはいたが隊長として他人の命を預かり時に部下に死ねと命令せねばならない立場に17歳の少女に背負える訳がない。 だが軍隊と云う所はそんな残酷な事を平気でするのだ・・・・・私から無慈悲に海を奪ったように。 「サンドオルカ・・・・・砂漠のシャチか・・・・・。」そういえば私が海を好きになった切っ掛け・・・・・そう確か、オルカ・・・・・シャチの群れの映像だったなと不意に思い出した。 オルカはメスを中心とする母系社会を形成する地球上の水生生物で非常に獰猛であり群れで狩りをする高い知能を有する海のギャングとも呼ばれる・・・・・。 だったかな?
可笑しいくらい今の私にピッタリだ・・・・・。

Episode Ⅵ キャンディ・ルシファー(17)准尉

 

有象無象が正義を振り翳し、我此処にありと声高らかに叫び歌う此処は戦場オデッサ。

 地球連邦軍による地上一大反抗作戦「オデッサ作戦」が発動した宇宙世紀0079 117

夥しい数の航空機部隊、機甲部隊、MS部隊が咆哮を上げ死神共が列をなして前進し殺戮の行進曲を奏でながらジオン公国第一次防衛ラインに肉薄した。

航空機隊による絨毯爆撃の序章が終わり、続いて砲兵隊による演奏が盛り上がりを迎え今次大戦の主役であるMS隊による阿鼻叫喚のオペラが繰り広げられた。

収束するビーム砲、雨の如く降り注ぐミサイル,一時も途切れる事のない十字砲火の嵐、嵐、嵐そこに広がるのはまさに地獄、否、無限に連なる煉獄か。その浄化の炎に焼かれた人々が向かうは天国なのか地獄なのか知る者はいない。

焼け爛れた装甲と肉が焼け、裂けた皮膚から流された大量の血で満たされた瓦礫の大地は一種の現代アートを連想させるカオスの箱庭。

人は後、幾度この様な美のかけらもない醜態で歴史の教科書を汚すのだろう? 

 

かつて我が祖国の創始者ジオンズムダイクンは人の可能性「ニュータイプ論」を説き、その意志を継いだとされるザビ家に心酔する私の愛する父母、兄そして、もし姐さん‥‥ラグ隊長が今も生きていてこの眼前に広がる地獄を前にしても「ジークジオン」と声高に合唱するのだろうか。

戦場でサンドラ伍長を庇い気高く散ったラグ隊長から私が引き継いだ我が「サンドオルカ」隊は北アフリカの最前線からエジプトを経由しこの北欧の地、オデッサ防衛戦に参加していた。此処へ派兵される前に軍が私にくれたのは准尉の階級章と僅か数キロの金塊だった。・・・・・「全く嬉しくて涙が出たぜ。」妹が生きながらにして二階級特進とは先にジオン公国軍に入隊したらしい兄様に話したらきっと鼻高々だろう、もしかしたら同じ戦場で轡を並べているかも知れない。否、おそらくザビ家に近い我が家の長男坊だ、大方、敬愛するドズル・ザビ閣下の親衛隊員にでもなっているだろう。そうであって欲しい‥‥兄様にこの地獄を見せたくない心からそう願う。前線にMS随伴歩兵隊員達を残し一度、前線から退いて後方で機体の修理と補給を受けていた頃、第一次防衛ラインが抜かれたとの報告を受けた。つまり前線に残して来たMS随伴歩兵隊員達の全滅を意味する。私の胸に巨大な何が落ちて来るのを感じる、後悔という名の巨大な目には見えない鉛の塊だ。巨大なそれに今にも押し潰されて死んでしまいそうだ。今までの人生でたいして流してこなかった涙て奴が押し寄せて来るのを感じる。こんなことなら軍が投げてよこした金塊を歩兵隊の奴らにだけでも渡してフィオリー伍長と同じく脱走させてやればよかった。 あいつが私に黙って脱走するなんて信じられなかったが勘が鋭く頭も回るアイツの事だ、もしかしたらこんな日が来るのを予見していたのかもしれない。後悔と懺悔が全身を這いまわるのを感じる。

ラグ隊長はずっとこんな気持ちと戦いながら隊の指揮を執っていたのかと改めて感心する、あの人は人前では絶対に涙を見せなかったし取り乱す事もなかった。吉報も訃報も凶報も全て淡々と受けて見せていた。

思えばMSの操縦も私の戦術も隊の指揮もラグ隊長の猿真似だ。ただでさえ狭く視界の悪いコックピットの中からなのにまるで背中にも目がある様で地上重力下でありながらMSを立体的な機動で操縦しMSという機体が出来る事出来ない事それら全て理解しているような、本当に凄い人だった。あの時、黒いツノ付き、「ガンダム」にやられるべきはラグ隊長じゃなく私であればよかったのに・・・・・心からそう思う。もしラグ隊長が生きていて今も隊の指揮を執っていれば隊員皆を喪う事もなかったかも知れない。 隊員は皆、歳若く綺麗だった。きっと戦争がなければ皆それぞれの夢を描いてそれに挑戦し無限の可能性を切り開いて行ったであろう前途のある若者達だったのに、ああ・・・・・駄目だ、これ以上、涙を堰き止められそうにない、もし今、誰かに優しい声をかけられでもしたら涙が堰を切って溢れ出してしまう、それに今まで落ちた事はないがきっと恋て奴にも落ちてしまうかも知れない。駄目だ、駄目だ、私は酒と博打と喧嘩を三度の飯より愛する見目麗しい皆が頼れる無頼漢の「キャンディちゃん」でいなくてはいけない。

それに今更、男達に負けじと無頼漢を気取ってた奴が一皮剥けば何処にでも居るような年相応の少女でしたなんて笑い話にもなりゃしないだろう。少なくともラグ隊長は見た目こそ私より年上とは思えない程の溌溂な少女だったが戦場より遥か後方の安全かつ清潔でクーラーの効いた御立派なオフィスで踏ん反り返る将官達より、その振舞は正に一軍を率いる将にも勝るとも劣らない立派なジオン公国軍人のそれだった。 私もそうあらねばならない。今という状況下では例え狂っているとされたとしても自分の作りあげた虚像を演じ切らねばならない、そうでなければ今まで苦楽を共にした戦友達とラグ隊長にあの世で再開した時に私は何て言えばいいのだ。そんな言葉たちが自分の中で堂々巡りを繰り返し狭いコックピット内で身悶えしている時にズシリと背後に振動を感じた。 やっと、エネルギー、弾薬補給と損傷個所の簡易修理が終了したのかと思ったが聞こえてきたのは間の抜けた穏やかで優しい戦場には相応しくない温もりを感じさせる声。 「・・・・隊長、大丈夫ですか?」ロイド・シムス二等兵が搭乗するグフが私の搭乗するザクの肩に手を乗せ接触回線で通話してきた。ザクのモノアイ越しに確認できるそのグフの姿は正にぼろ雑巾という言葉がピッタリな程、損傷が激しい。それも当然か私が命じたフォーメンションのセンターで敵の猛攻を一身に受けるタンクの役回りを見事に完遂してみせたのだから。どうやら損傷した左手の5連装75mmフィンガーバルカンを通常のマニュピレーターに換装したらしい武装を交換し直ぐにでも前線へ戻る気らしい。「・・・・ですか・・・・?」何か話しかけているようだが上手く聞き取れない。 それもそのはず私はコックピットの中で通信音声が聞き取れない程に声をあげ大粒の涙を流し号泣していたのだ。 もしこれがMS越しでなく生身であったなら今すぐ押し倒してその胸の中で大いに泣き喚き甘えて見せただろう。きっとロイドの奴はそんな私の顔を見て何時もの困った顔をするのだろう。

 

私が我儘を言って困らせた時に、私の愛する兄様がするように・・・・。

Episodeⅶ サンドラ・ブルーメ(25)曹長

 

その身に死臭を忍ばせて死獅子身中の虫が蠢く夜のサバンナ、愛しき我が子は何処かと遥か宇宙の彼方から蜘蛛の糸を手繰りに手繰って遥々旅した、

44万と9000Km、降り立つ地は母なる星の父たる大地アフリカ。母なる者の愛と狂気は紙一重、愛しき我が子と再び逢えるなら地獄に落ちても悔いは無し・・・・・。

 

遥か宇宙の彼方、月の裏側「サイド3」から我が子求めてジオン軍へ参加し長い旅をえて私は地球へ降り立ちジオン公国アフリカ方面軍第101機甲歩兵中隊所属「サンドオルカ」隊に所属し日々、北アフリカの最前線で愛機のドム・トローペンを駆り自慢の熱核ジェットホバーでの高速機動戦闘、そして中距離からのラケーテン・バズによる大火力支援攻撃により数々の戦果を獲た。

そして私は仲間との絆と軍からの信頼を手に入れた。 

だが私の胸に去来するのは愛しい我が子との再会と平和で唯々穏やかな母子の生活のみ。 残念ながら我がジオン公国軍がその望みを叶えてくれるとはとても思えなかった。そもそも絶対的物量の差が在りすぎる連邦に勝利するためのブリティシュ作戦も地球圏降下電撃作戦もその初期の目的を果たせずただひたすらに戦線の拡大と補給線の肥大化を招き早半年が過ぎさり戦況も膠着状態に陥る有様で我が軍に長期戦に耐える十分な資源も兵もないのは末端の一兵卒すら承知している。この絶望的戦況も膠着状態のまま早、半年。私がジオン公国を見限らない理由を探す方が難しいだろう。

 

日々、北アフリカサハラ砂漠に点在する補給基地を巡回し敵の索敵と殲滅戦を繰り返すそんな単調退屈で私にとっては無意味な戦闘任務をこなす苛立ちの中、私に吉兆が齎された。

味方から疑惑の目を向けられるのを承知で敵機との接触回線を繰り返した甲斐があった。

何時頃から戦場で度々遭遇した全機が黒い装甲に身を包む謎の連邦のMS部隊。「タイガーファング」ザクの頭部を食いちぎる虎のマークを持ちジオン兵からは「ザク喰いの虎」と蔑まれる部隊。私はその部隊と密かに通じるようになっていた。

近々に北欧方面の何処かで大規模な戦端が開かれるらしい。

「北欧方面の何処かね・・・・・。」 私に齎された曖昧な情報もよほどの馬鹿でもない限り北欧で連邦が新たな戦端を開く程の重要な地域なぞ欧州随一の工業地帯と膨大な埋蔵量を誇る鉱山基地のあるオデッサ以外あるまいに。

後に「オデッサ作戦」「オデッサ・デイ」と呼ばれる地球圏一大反攻作戦に向けて世界各地に向け連邦軍が仕掛けた陽動作戦に投入された部隊。その一部がこの北アフリカ戦線に投入された特務部隊「タイガーファング」だった。

私は「タイガーファング」からの命令でキリマンジャロ基地の精確な座標と私が知りうる限りの秘密通路とトーチカや常駐防衛隊の配置に即応部隊の編制などを伝えた。

もちろん私たち「サンドオルカ」の近々の作戦タイムスケジュールを含めて。

そして宇宙世紀0079 11・1 未明

私の眼前に迫る連邦の「黒い悪魔」ガンダム・・・・・。

最初は、連邦は馬鹿なのか?高性能新型かも知れないが単騎でMSを戦線に投入してなんの陽動になるのかと。実際は私達の居た地点とは別方面から大部隊の奇襲作戦が行われていたのだが当時の私には知る由もなかった。

そしてアフリカの地に初めてに投入された新型MS[ガンダム]その性能、装甲、機動性に私たちは驚嘆した。あの化け物・・・・・。「サンドオルカ」隊の隊長にして稀代のMSパイロット、ラグ隊長をして苦戦を強いられる相手を始めて見た。こちらの編隊は隊長のカスタム専用機[ケンプファー]をセンターポジションに続き、いけ好かない女だがMS操縦の腕は隊長に次いでピカ一なキャンディ副隊長の[ザクⅡJ]をセカンドポジションに、そして最後尾は私の愛機[ドム・トローペン]この3機による必勝必殺のフォーメンション「デルタ・フォーメンション」だったが従来のMSの性能を凌駕する連邦の新型[ガンダム]は難なく躱しビームサーベルを私の愛機へ向け高速で迫ってきた。

もう駄目だと思った瞬間、激しい衝撃と共に吹き飛ばされ次の瞬間、モニターが映し出したのは高密度粒子の閃光に貫かれた隊長の乗騎[ケンプファー]だった。

その後の戦闘の経緯はよく覚えていないが私とキャンディー副隊長そしてMS随伴歩兵の何名かは何とか生き延びる事が出来た。

この戦闘で私は右目を失ったが負傷兵リスト入りを拒否してこのまま前線に残る事を上申し承諾された。今回の戦闘で大きな損害を受けたジオンアフリカ方面軍も断る理由もなかったのだろう。「まだ、あの子と再会できてもいないのにこのまま本国へ強制送還などされてたまるかよ・・・・。」

その後、私は幾名かの敵と味方の命を奪い今、ジオン公国軍、オデッサ防衛混成部隊の傍らでジオン軍第一次防衛ラインの片翼で奮戦していた。

「こんな場所で死ねるか・・・・・私はあの子をどんな事をしてでも取り戻すんだ・・・・。」

 

宇宙世紀0079 11・9 ジオン軍はこの戦闘で大敗し生き残った各部隊は宇宙、アジア、アフリカ方面へ撤退しオデッサ作戦は終焉した。

「サンドオルカ」隊の生き残りはキャンデイ・ルシファー少尉、アオイ・イノリ軍曹、ロイド・シムス伍長、そしてサンドラ・ブルーメ曹長の4名でジオン軍は各々の功績に対して褒章を与えた。

 

「・・・・私はこの先も絶対生き残るわ、あの子が守ってくれてるもの・・・・みんな屑、弾除け、あのロイド坊やも垂らしこんで手駒にしてあげようかしら・・・・。」

 

母は鬼となっていた・・・・。

EpisodeⅧ アオイ・イノリ(19)軍曹

 宇宙世紀0079 11・9

兵どもが夢の後、地球連邦軍、ジオン公国軍双方死力を尽くし奮戦し夥しい数の残骸と屍を積み上げ宇宙世紀に新たな地獄の黙示録を刻み込こんだ北欧の地オデッサ、この戦いで辛くも勝利した地球連邦軍、この出来事が北欧方面だけではなく地球圏全土のミリタリーバランスを激変させることとなる。

地球連邦軍がオデッサ作戦に投入した戦力はおよそ地上戦力の実に三分の一、そしてその大部隊の指揮を執るのは地球連邦軍総司令官ヨハン・イブラヒム・レビル将軍。

開戦当初こそジオン公国軍は地球降下電撃作戦を皮切りに破竹の勢いで地上の半分をその支配権としていたがこの連邦軍のオデッサ作戦による敗戦は戦争の勝敗を占う天秤を一気に連邦側へ傾かせる程の物であった。オデッサ陥落時にはジオン公国突撃機動軍大佐にしてオデッサ基地防衛総司令官だったマ・クベ大佐は既に宇宙へ脱出、残された将兵達も後に続く様に宇宙、アジア、アフリカ方面へ敗走、脱兎の如く四散していった。

 

 

宇宙世紀0079 11・12

オデッサの戦いから何とか生還した「サンドオルカ」隊の隊長キャンデイ・ルシファー少尉、副隊長サンドラ・ブルーメ曹長、ロイド・シムス伍長、そして私、アオイ・イノリ軍曹の4名と他に生き残った別方面の所属だった将兵達とガウ攻撃空母に乗艦し連邦軍の残敵掃討部隊を躱しながら黒海を南下、北アフリカ、ジオン公国軍チュニジア補給中継基地にてつかの間の休暇を楽しんでいた。

 

オデッサ鉱山基地を失ったジオン軍司令部は混乱を極め各地に散り散りになった部隊を再編制する時間を必要としていた。

 

休暇と言ってもオデッサでの戦いから持ち帰ったサンドラ軍曹のドム・トローペンとロイド伍長のグフの修理補給を待つ間のほんの僅かな休暇だった。ちなみにキャンディ隊長と私が搭乗していたザクⅡ2機は損傷が激しすぎためオデッサ脱出時、爆破放棄した。

チュニジア基地でキャンディ隊長は新たに[ザクⅡJS]、私はMSM-03C [ハイゴッグ]を新たに受領した。キャンディからは「ザクにしろ!ザクにこれからどう転がるか分らんがそんな足の遅そうな奴で砂漠を渡る気か?お前はアホか⁉」など色々言われたが私はズゴックの次に気に入った。私は新しいこの愛機で偵察任務に志願し海でつかの間のバカンスを楽しんだ。一応、キャンディも誘ったが「ザクで海上偵察が出来るか⁉」と断られ、サンドラ曹長は基地周辺のドヤ街のバーで飲んだくれてくるらしい。仕方ないのでロイド伍長を連れ出した。

ハイゴックでの偵察任務はロイド伍長に任せ私は海に身を任せただ漂ったり思いっきり泳いだ。まさかまた、海に帰ってこられるとは思わなったオデッサの戦いから生還できたのも奇跡に思える、チュニジア基地の若いMSメカニックが用意してくれたジオン軍の水着はセンスが良いとは思えないが裸で泳ぐよりはいいか。

「これから私たち・・・・どうなるんだろう?」太陽に手をかざし誰に語りかけるわけでもなく呟いた。「え?何です?何か言いました?」ハイゴックのハッチから顔を出したロイド伍長が声をかけてきた。「うん?・・・・なーんも・・・・。」

「そうですか?では海上監視に戻ります!失礼しました!」

・・・・全く真面目な奴だ、面白くない奴。

「あっ!そういえば⁉ロイド伍長、キャンディと・・・・キャンディ隊長と何かあった?」

ふと思い浮かんだ事を聞いてみた。

ロイド伍長は先ほど引っ込んだハイゴッグのハッチから顔を飛び出させ赤面しながら叫んだ。

「なっ・・・・・なっ、何にもありません‼であります・・・・。」それだけ言ってまたコックピットに引っ込んだ。

・・・・何かあったなこりゃ。

それで良いのだ、若い男女が出会い恋をしたり夢を思い描いてそれぞれの人生を思い切り楽しむのが本当の人生なのだ。年端もいかない若い奴らが戦争で毎日、何処かで死んでいるこの状況の方が異常なんだ。何がスペースノイドの自由だ自治独立だ大人たちが声高に叫び扇動し勃発した戦争で今までどれだけの人が傷つき死んでいったのだろうか私は今の今まで海が見たい・・・・ただそれだけの思いで突き進んで此処まで来てしまったけれど私は何をしているのだろう。 キャンデイだけじゃなく私の心も限界に近いのかもしれない。

色んな思いが胸で渦まいて圧し潰されそうだ。

「アオイ軍曹‼敵機です!!ミデア輸送機とセイバーフィッシュ多数確認!!」

どうやらつかの間のバカンスは終了したらしい。

 

宇宙世紀0079 11・30

劣勢にたたされたジオン軍は僅かな戦力を集結し一か八かの奇襲作戦、地球連邦軍総司令部ジャブロー攻略作戦を発動するも失敗。これを機に戦争のメインステージは宇宙へ移っていった。

 

EpisodeⅨ ジオン公国 アフリカ方面軍 第101機甲歩兵中隊所属サンドオルカ

オデッサ、ジャブローでの敗戦を受け主戦場が地上から宇宙へ移行し地球に残された者達は窮地に陥っていた。特にオデッサを失った事で宇宙との太い補給線を失った事は各ジオン地球方面軍に大きな混乱を生じさせ無秩序に伸び切った戦線と乱れに乱れた補給線はジオン地上軍の再編成を大幅に遅らせ、各方面軍はまともな連携はおろか地球方面軍総司令官の不在による機能不全状態であり今や開戦当初の破竹の勢いを見せ電撃的に地球の半分をその勢力下に置いていた正に無敵を誇ったジオン軍の姿はここにはなくただの巨大な烏合の衆と化す状況になっていた。

 

宇宙世紀0079 1112

ジオン公国アフリカ方面軍101機甲歩兵中隊所属 サンドオルカ とはいえ既に所属していた101機甲歩兵隊は消滅し今やただの一MS小隊と化した「サンドオルカ」隊は先のオデッサ防衛戦から撤退したチュニジアジオン軍補給中継基地にて連邦軍の航空機戦隊と地上MS小隊による混成部隊による追撃を受け戦闘に突入、チュニジア補給中継基地と周辺の都市は浄土と化すがこの死地よりの脱出に成功。

この戦闘により先行量産された新型MSM-03C [ハイゴッグ]を失ったがアオイ・イノリ軍曹、ロイド・シムス伍長、搭乗者2名は無事生還。機体に火を入れたばかりの新型機を失った事に嘆くアオイ軍曹にいつもの憎まれ口を叩きながらも心より安堵するキャンディ・ルシファー隊長。

その後チュニジアでの戦闘で生き残った他部隊と合流し幾度も地球連邦軍の追撃をたくみに躱しジオン軍キリマンジャロ基地へ帰還した。

 

宇宙世紀0079 125

地球連邦軍は来る宇宙でのジオン公国との最終決戦に向け考古の憂いを断つべく地上のジオン残存勢力へ対してアメリカ大陸、アフリカ方面へ大規模なジオン地上軍掃討作戦を開始し地上は新たな局面を迎えていた。

地球連邦軍によるジオン地上残存勢力掃討作戦に対しジオン軍キリマンジャロ基地司令部は断固として徹底抗戦を宣言。

「総員、玉砕せよ!」との時代錯誤極まりない号令を発令。

宇宙への帰還を望む一部の将兵達は反発し独自の判断により離叛、サンドオルカ隊、キャンディ・ルシファー隊長もこの動きに呼応、ギャロップ級陸戦艇に [ザクⅡJS][ドムトローペン][グフ]自分たちの愛機を搭載し強奪、タンザニアジオン軍キリマンジャロ基地から脱出し宇宙ジオン本国への帰還方法を模索すべく行動を開始した。

目指すべきは北部、中央、南部アフリカのジオン軍勢力下の宇宙港、ジオン軍HLV発射基地などではあるが連邦の残存勢力掃討作戦が真っ先に潰しにかかるのはそれらであるのは戦略的にみても明らかであり、それを知らぬジオン将兵は居るはずもなく離反を決意した各部隊は足並みを揃える事もなく其々の判断の元、我先にと四散する様は最早、国名を拝する軍隊とは言い難い状況であった。 

 

宇宙世紀0079 12・22

サンドオルカ隊はアフリカ北西部アトラス山脈ジオン軍HLV発射基地にて地球連邦軍北アフリカ方面ジオン残存勢力掃討軍として投入された因縁深い連邦軍特務部隊「タイガー・ファング」との最終決戦の時を迎えていた。

 

 

余りに多くの戦友を見送った・・・・。みな若く美しく苦くとても眩しかった。其々の胸に輝かしい夢や愛する人との未来を思い描きながら、ひた向きに勇敢に愚かにも其々の理想と信念、愛と正義を信じ戦い、戦場でその命の花びらを散らしていった・・・・。一人、また一人と虹の向こうに旅経つ戦友の背中を見送るたびに見えないガラスのナイフがこの胸に名を刻み痛みが増していく、もし自分の順番が来た時は誰か私の名前をその胸に刻んでくれるだろうか?

 

「テメエ‼サンドラァァァ‼」アトラス山脈ジオンHLV発射基地地下坑道にキャンディ・ルシファー准尉の駆る[ザクⅡJS]の咆哮が響き渡った。

「ア~ハハハハハハハ・・・・言いざまだねぇ~隊長さん‼」サンドラ・ブルーメ曹長が裏切りの本性を現せ搭乗するドム・トローペンの右手に装備したMM-80マシンガンを水平掃射しながら熱核ホバーによる高機動戦闘でキャンディ隊長のザクとロイド伍長が搭乗するグフを翻弄しその場に釘付けにしていた。

一方、アトラス山脈基地は中央防衛ラインが突破され防壁も既に破壊され連邦軍特務部隊「タイガー・ファング」のMS部隊、歩兵部隊が雪崩の如く侵入し基地防衛隊との激しい白兵戦を基地各場で繰り広げていた。

「やめてください‼ンドラ曹長‼」

ロイド伍長の駆るグフが盾を全面に突き出し突出、ドムトローペンのマシンガンの連射を弾きながらドムトローペンに肉薄し右手に装備したザクマシンガンをドムトローペンのコックピット付近に向けた。

「どうしたんだい⁉坊や、撃たないのかい⁉」

「くっ!どうしてあなたは⁉」

「フフ、撃てないよね?だってあんたはお医者様になりたいんだろ?人様を殺すなんて出来ないもんねぇ〜〜?」 「ロイド、離れろ‼お前が邪魔で射角がとれねぇ‼」

「どいつもこいつも私の邪魔ばかりしてさぁ〜〜私の赤ちゃんの為にさっさと死んでちょうだいよ〜〜〜‼」 「あ、赤ちゃん?あなたは何を」ロイドのセリフが終わらぬうちにサンドラ曹長のドムトローペンはその場で素早く左旋回しロイドのグフに左肘を喰らわせ吹き飛ばすと同時にロイドの背後のキャンディ准尉のザクへ右手装備のマシンガンを連射。

ザクは咄嗟に交わし直撃こそ免れたが右足と腰部動力パイプ部に被弾。 更に最悪な事に右腕が武装ごと大破し膝をついた。

更にトドメをさすためにドムトローペンはマシンガンを向けるが弾は出なかった。

チッ、弾切れかい、予備弾倉も使い切っちまったよ。」

「運が良いね〜隊長、アンタ本当に運が良い女だよ、あの化け物女と同じ死に方で逝けるんだからさぁ〜。」

サンドラ曹長は背中のヒート・サーベルを抜いた。

おい、サンドラテメェに聞きたい事がある。アオイはどうした?」

キャンディ准尉のザクが膝を震わせながら立ち上がった。

「ああ、あの女なら見ちゃ行けないものを見たから一足先に地獄へ送ってやったよ。人の秘密の通信を聞いた悪い子には額に鉛玉を喰らわせてねぇ〜。」

「テメェェェ‼」再び地下坑道にザクの咆哮が響いた。

ドムトローペンは両手でヒート・サーベルを掲げ振り上げた。

「うるさいねぇ〜‼もう、逝きなよ〜〜‼」ザクのコックピットへ向けてヒート・サーベルが振り下ろされた。

だがその鋒がザクのコックピットに届く事はなかった。ドムトローペンの両腕にグフのヒートロッドが絡みつきギリギリと締め上げていた。「坊や‼あんた、まだ邪魔するのかい⁉」サンドラがコックピットで甲高い声で叫ぶ。

「この、人も殺せない臆病なガキがぁ〜〜‼あんたにMSは勿体ないよ、とっとと降りて私に踏み潰されなぁ〜‼」ドムトローペンは出力を上げて無理矢理にヒート・サーベルをザクのコックピットへ向け貫こうと力を込めた。

「やめてくださいサンドラ曹長‼」

「おい、サンドラ‼、テメェは何もわかってねぇぜ!確かに、こいつは初めてそいつに乗ってから今まで一度も敵機を落としたこたぁねえがよ、逆に今まで一度も敵機に落とされた事もねぇんだぜ?中距離で走り回るテメェのドムと違って敵中のど真ん中で私らの盾になりながらなぁー‼」

満身創痍のザクが最後の力を振り絞り、背部バニーアを最大出力で開放しその推力を利用し左拳をドムトローペンの胸部コックピットへ向け打ち込んだ。

 

ドムの頭部モノアイの発光が消え動力を失ったドムトローペンは完全に沈黙した。

「ザマァみやがれ。」 

そしてキャンディ・ルシファー准尉のザクも事切れた様に力を失いドムトローペンにもたれかかるようにして沈黙した。

「隊長~‼」 

ロイド伍長のグフが沈黙した2機のMSに駆け寄った。

グフはザクをドムトローペンから引き離すとザクのコックピットをこじ開け、ロイド伍長はザクのコックピットへ乗り込んだ。

「良かった、無事みたいですね隊長。」

ザクは完全に大破したがコックピット内のキャンディ准尉は無事だった。それを確認したロイド伍長は心から安堵した。

「あったりめぇだろ?無敵に素敵なこのキャンディちゃんが簡単にくたばってたまるかよ。」

隊長はいつもの憎まれ口でロイド伍長の心配を少しでも和らげようとした。

2人は見つめ合う、これがチンケなメロドラマなら2人の熱い口づけで物語の幕が閉じて終わりだろうが此処は悲しいかな戦場の真っ只中である。

2人の沈黙を貫く様に通信が入る。

ミノフスキー粒子の影響で聞き取りにくいが確かに味方からのものだ。

 

「誰か?誰か生き残ってる奴は居ないか?こちらHLV発射場中央ターミナルドックだ1番港はやられてもう駄目だ‼だがまだ2番、3番港の艇は生きてる‼中央ターミナルドックで黒い奴、ガンダムと交戦中だ、まだ生きてMSに乗ってる奴らは港に来て防衛に回ってくれ‼戦えない奴は早くHLVに乗り込め‼発射のカウントダウンはもう始まってるぞ‼急げ‼」聞き取れた内容を要約するとこうだ。

この通信を断続的に続けて基地内の仲間を発射場に誘導している様だった。

 

「よし!ロイドお前のグフを私に寄越せ‼そんでお前はそこらに転がってるワッパ(1人乗りホバークラフト)で艇まで急げ、これは命令だ。」

早口で捲し立てるとキャンディはロイドの唇を奪って突き飛ばした。

ザクのコックピットシートに飛ばされて呆気に取られている間にキャンディはロイドのグフに乗り込み中央ドックへ向かい走り出した。

 

まだロイドの温もりが残るグフのコックピットシートに安心を覚える。まだキスしかした事がなく、しかもさっきが人生で初のファーストキス、てやつだ、それなのにこんなにも顔と体中が煙をあげそうなほど熱い。

人を好きになるって、こんなにも凄いパワーが湧き上がるものなのか。恋て奴は、凄いな。

戦場に向け走るMSの中でこんな不謹慎な思いが頭を駆け巡ったが悪い気分ではなかった。「フフフ。」

死地に向かって走っているのに顔がニヤ二ヤしてしまう。これが恋の力、て奴なのかも知れないとキャンディは思った。

そんな時、通信が入る「隊長‼、キャンディ隊長‼」ロイドがワッパを駆りグフを追いかけて来た。

「あのバカっ⁉」先程までの高揚が嘘の様に胸に張り裂けそうな痛みが走った。

「馬鹿野郎‼」グフから怒声が飛ぶ。

「貴様、命令違反を犯す気か⁉命令不服従は銃殺だぞ‼」いつもよりきつい口調でロイドを叱責した。

「出来ません、自分は死ぬまで隊長にお供します‼」

 

 

 

 

やめてくれ、本当に……貴方が側にいると私はただの女の子になってしまう。

平和な時代にならそれも良かった。でも今は駄目だ。

今、この窮地を脱するためには……何よりも愛する貴方を助けるにはいつもの強い私、灼熱の北アフリカ戦線を生き抜いたジオン公国アフリカ方面軍エースパイロット、「キャンディ・ルシファー」でなければいけないのに今、これ以上、貴方の声を聞き、貴方の姿を見てしまったら私は戦えない程に弱くなってしまう。

 

 

 

 

グフは走るのを止め停止した。

ロイドが心配そうにワッパから声をかけた。

「隊長?」

 

グフからいつもの口調とは違う優しくも穏やかで力強いそして丁寧な言葉が降ってきた。

 

「ロイド……良く聞いて、何を勘違いしているのか知らないけど私は死に行くわけじゃないわ。この機体は元々私が乗る予定だったのよ、ただ機体の特性が気に入らなくってずっと避けて来たけれど今、このパイロットシートに座って実感するわ。この機体は私みたいなエースにこそ相応しい機体だってね。私の腕は貴方も知ってるでしょ?コイツと私のコンビが最強だって分からない?それにそんな武装も付いてないワッパでどう援護する気?貴方は私に死んでほしいのかしら?」

「隊長。」

 

堰を切って言葉から溢れ出てくる。

 

「私は貴方が心の優しい人だと知っているわ、貴方が私達だけでなく他の隊の人達の怪我の治療や病気に対するアドバイスをしていたのも知ってる。自分だって戦いで疲れて傷ついていたのにね、貴方はジオン公国軍兵士なんかじゃなくて立派にお医者様にならなくては駄目な人なのよ。 だから生きて国へ帰って、勉強して本当のお医者様におなりなさい。貴方はオルカじゃない、貴方は私達みたいな殺し屋じゃなくて貴方は気高く美しい風に向かって立つライオンなの。」

 

目からとめどなく溢れる涙がモニターを濡らし画面がぼやけてロイドの姿が滲んだ。

 

「わかった?わかったらお願い、逃げて、貴方が側にいたら私、戦えない、貴方が側にいたら普通の恋する女の子になってしまう。だからお願い……。」

 

涙を拭いモニターを確認するとそこにロイドの姿はもうなかった。

 

そう、それで良い、これで私はいつもの私に戻って元気に立派に乱暴に最後の悪あがきをする事ができる。何よりラグ隊長の仇。あの連邦の黒い奴[ガンダム]と戦える。

 

そう決意を新たにグフの歩を進めようとした瞬間モニターにロイドが映された。

ワッパでグフのモノアイカメラの前に立ち塞がった。

 

「あの馬鹿野郎が‼さっきの私の涙を返せ‼」

 

少しの怒りと喜びとがないまぜになった状態で一瞬、頭が混乱状態になったが一発パンチを喰らわせてやるつもりで拳を振り上げコックピットハッチを開けた。

ロイドはハッチが開くなりワッパを横付けしコックピットに乗り込んできたと同時にキャンディ准尉の振り上げた腕を掴み力強く抱き寄せキスをした。

 

その瞬間、色々な感情が胸の底から湧き上がって再び涙となって押し寄せた。

 

「自分はこれからご命令通りHLVへ向かいます。ただその前に、先程の様な不意打ちなどではなく正々堂々と隊長の唇を奪いにやって参りました。自分、これでも男ですので。」

和かに微笑みながら敬礼をして見せた。

 

全くこいつは本当に面白くて、真面目でおかしな奴だ、本当に愛しくてたまらない。

 

「御無礼をお許しください。」

 

「うん、許す。」

キャンディも泣きっ面の笑顔で敬礼し返した。

「では、隊長ご無事で、必ずまた。」

言葉が途切れた。体を震わせ目に涙を溜めて流すのを必死に耐えている。

 

「ロイド・・・・お前は髭を生やせ。」

唐突なキャンディの台詞に顔をキョトンとさせるロイド。

「何故、でありますか?」

「その方が、男前が上がるし、ただ単純に・・・・私の好みだ。それにその方がライオンっぽいだろ?ただロン毛はなしな、私は男のロン毛は嫌いだ。」

 

「ハイ‼」

 

お互いの顔を見合わせ笑った。最後に本当にくだらなくて極めて平時に恋人同士がする様な普通の会話をし、キスをして別れた。

 

もう思い残す事は何もなかった。

グフは走り出し3つのHLV発射場に繋がるアトラス山脈基地地下中央ターミナルドックへ向かった。

 

「へっ!どうやらパーティーのフィナーレには間に合った様だな。」

 

中央ターミナルドックにはコックピットの装甲の内側からも感じる嗅ぎ慣れた硝煙と鉄と血肉が焼け、焦げついた匂いが充満し夥しい機体の残骸とジオン、連邦双方の兵士の遺体が積み上がっていた。

戦場で、何度も見た地獄の様な光景だ。

そしてそこに立つ黒い装甲に身を包んだ一機のMSの姿があった。[ガンダム]連邦が生み出したジオンにとっては悪夢の様な存在。

恐らくコイツがあの時、ラグ隊長を殺した奴に間違いない。

 

装甲、機動性能、パワー、スピード全ての機体性能は向こうが上だろう。

更に、あちらはご自慢のブイブーレドアンテナが片方折れている以外、大したダメージを負っているようには見えない。武装も最悪な事にビームライフルを携帯している。

対してこちらは至極普通な量産型機[グフ]だ。勿論、エース用の特別なカスタマイズなど一切、施されてはいない。そればかりか先ほどのサンドラとの戦闘のダメージも軽くないし

装備しているザクマシンガンの残弾こそ多いがガンダムの装甲を貫くほどの威力はないときている。普通に考えたら勝ち目など存在しないが、別に勝つ必要はないのだ。

ただHLV発射までの時間を稼げばいいのだから。

そんな思案を巡らせているとガンダムはビームライフルの銃口をグフに向けた。

グフは素早く足元にあった連邦のMS[ジム]の残骸を蹴り飛ばしガンダムに放った。

同時にガンダムが放ったビームライフルがジムの頭部に直撃し融解爆散した。

爆散したMSの破片を煙幕代わりにガンダムの右側面に回り込むグフ、すかさずヒートロッドを放ちガンダムが右手に装備するビームライフルを絡めとり電撃を食らわせた。

ビームライフルは爆散しはじけ飛んだがヒートロッドに絡めとられた瞬間にガンダムはビームライフルを素早く捨てていたので機体にダメージはない。

「いくらHLVの装甲が厚くても流石にビームライフルは脅威だからな!最初に潰させてもらったぜ‼」

ビームライフルを初手で完全無力化出来たのは運がよかった。

これでガンダムの戦力は大幅に低下しただろう、そうでなくては困る。

グフはそのままガンダムの周りを走りザクマシンガンを掃射、しかしガンダムの異常なまでの重装甲に阻まれる。「くっ!この化け物が‼」

グフがマシンガンを打ち尽くすとガンダムは背部のビームサーベルを素早く抜いてグフに迫る。グフも盾に収納されたヒート・サーベルを素早く抜き応戦、二つの巨大な剣が交わる。

 

「へっ!流石は白兵戦特化MSグフだぜ‼ザクとは違うぜ、ザクとはぁぁぁ‼」

 

勝てるかもしれない。キャンデイの脳裏に淡い期待が這いよる。

 

「駄目!!さがってキャンディちゃん!!」

その時、頭の中で懐かしい声が響いた。

 

「ラグ姐さん⁉」

ビーム・サーベルとヒート・ソードの鍔ぜり合い中、ガンダムの頭部からバルカン砲が発射されたがグフは後方へ飛び躱した。さっきの声が無ければ被弾していただろう。

「ああ、ついに私はおかしくなっちまったのか?ラグ姐さんの幻が見える・・・・・。」

否、ラグ隊長だけじゃない戦いで散っていったサンドオルカ隊のみんなが見えるアオイにキッド、それに赤ん坊を抱いて優しく微笑むサンドラまでいる。

サンドラのあんな穏やかで優しい笑顔は初めて見た。あいつもあんな表情が出来る女だったのか・・・・・。

「なんだかわからねぇけど力が湧いてきた‼みんな私に力を貸してくれ‼後、少しHLVの発射まで持てばこっちの勝ちなんだ‼」

この土壇場で自分の中に何かの目覚めを感じたような気がする。

しかしこの土壇場で変わったのはキャンディだけではなかったガンダムの様子がおかしい。

先ほどの攻撃を躱した後、少しの沈黙後、ガンダムのカメラアイが紅く発光し先ほどまでとは全く違う挙動で襲い掛かってきた。

「なんだ⁉まるでさっきまでの動きと違うじゃねぇかよ‼そんなんありか‼」

違うのは挙動だけじゃなくスピードもパワーも段違いに違う。更にまるで宇宙空間のような立体機動を地球重力化で行えばパイロットは無事で居られる筈がない、あり得ない。まるでパイロットなど存在していないかのような立体的な機動。

それでも何とか食らいついて行けてはいるがこれ以上機体が持ちそうにない。

その時、中央ターミナルドッグに巨大な地響きが二度鳴り響き白い煙幕が立ち込めた。

HLVが2機無事に発射されたのだ。

「よかった・・・・。」

安堵の声が漏れた瞬間、グフの腹部をガンダムのビーム・サーベルが貫いた。

あれだけの見事な死闘もその幕切れはあっけないものだった。

 

 

 

 

一方、アトラス山脈HLV発射基地から飛び立った二機のHLVは大気圏を突破する前に

基地周辺に配備されていた黒い装甲に身を包んだ連邦特務部隊「タイガー・ファング」のMS

ジムスナイパーカスタムの大型ビームスナイパーライフルの狙撃により空中で大破爆散した。

この掃討作戦でも連邦は被害を出しながらも勝利を収め次々とアフリカ大陸に残存するジオン公国残存勢力へ攻勢を強めていった。

 

 

 

 

時に宇宙世紀0079 12・22 

こうして、北アフリカの壮大な大自然を駆け抜けたジオン公国アフリカ方面軍 第101機甲歩兵中隊所属サンドオルカの戦いは終結した。

サバンナに吹く風は彼らの記憶を留める事は決してないが彼女たちはこの過酷な戦場で確かに生き、もがき足掻いて懸命に恋をして戦い貫いて散っていった事実だけは決して揺るぎのない事実なのである。

 

願わくば、心半ばで散っていった彼女たちの魂が旅立った先で永遠の安らぎを得る事を望む。


Kiss your back and say goodbye.

The thorns of your sad dreams pierce my chest as we depart for the other side of the rainbow It's just the pain of a promise to meet again someday It's a sad person, so I just want to hold you because you're my love I just want to tell you I love you I throw a kiss and good-bye to your backs as I see you off

 

I'm not afraid of anything if I'm with everyone I'm a sad person I'm a sad person I'm a sad person I'm a sad person I just want to hold you I don't want to let you go But I love you so I'll throw a kiss and say good-bye on your back I'll throw a kiss and say good-bye on your back I'll throw a kiss and say good-bye on your back

 

I can't stop the tears because there's still warmth on my lips I'm a sad person I'm a loving person I'm going to throw a kiss and say goodbye

 

虹の向こう側へ 旅立つ君達の 哀しい夢の棘が胸を刺す それはいつかまた巡り合う為だけの 約束の傷の痛みなんだよね 哀しい人だから 愛しい人だから ただ抱きしめてたくなるのね ただ愛してるを伝えたくて 見送る背中に投げるよ キスとサヨナラを

 

寒い時代と人が言う そんな時代を駆け抜けて 虹の向こうへ旅立とう みんなと一緒なら何も怖くないよね 哀しい人だから 切ない人だから ただ抱き寄せて 離したくないよ だけど愛しているから 見送る背中に投げるよ キスとサヨナラを

 

 

星の数だけ思い出が 胸いっぱいに 溢れ出す 涙がとまらないのは 

まだ唇に温もりが残っているから 哀しい人だから 愛しい人だから 見送る背中に投げるよ キスとサヨナラを